しんどい

改行はない 生活するだけ

2020.10.3 満月にいたるまで

2020.7月中旬

先日、恋人に結婚を申し込むことを決めた。去年からずっとそのつもりではいたものの、自分のなかの問題で、なかなか踏ん切りがつかなくなっていたこともあったけど、ついに決めました。相手との結婚生活の不安からなどはそこまで大きくなく、「自分が家庭をもっていいのか」、「もう何からも逃げられなくなる」、など自分の弱さを自覚したうえで決心できなかったところが大きすぎた。まあ仕事で追い詰められていて、大変精神が後ろ向きになっていたといことも充分あるが。何にしてももう決心したので、さっそく行動に移さなければならない。年内のできれば早めにプロポーズをしたい。入籍はいつでもいいから、早く伝えたい。近頃「先が見えなくて不安」と言う恋人には申し訳ないが、準備までもう少しまってください。

一生に一度のことなので、できるだけ2人の思い出に残るようなプロポーズにしたい。けれども凝りすぎるのも嫌だし、大がかりに他人を巻き込んだりするのも性に合わない。なるべくなら静かに2人だけでやりたい。などと、シチュエーションを考えるもののすぐには名案は浮かばないので、まずは婚約指輪から考えることにした。しかしネットで好みに合いそうなブランドを探してみるも、婚約指輪といえばザ・お姫様のようなデザインが大半を占め、なかなかこれだというものにたどり着くことができなかった。全てが簡単ではない。

2020.8.20(木)

ようやくネットで一つのブランドに目星をつけ、おれの住む町にも支店があるとのことで来店予約をした。仕事終わりに急いで向かった。何度も通ったこともある街の中心部にある店だが、普段なら絶対に縁がなく気にもしていなかったのでどこか新鮮だった。接客は1人の担当者と一対一だったが、あまり緊張はなかった。むしろ店に来る前に食事した餃子の王将のこわいおばさんにオーダーするときのほうが緊張した。リングはおおまかな理想のイメージは持っていたので、それを伝えて7〜8個に絞って検討した。おれが知りえる恋人の趣味とおれの好みを総合的に勘案して、婚約指輪としてはかなり無骨でシンプルなデザインのものに決めた。今日決めるつもりは全くなかったのだけど、あまりにもストライクすぎるデザインを発見したので、もうそれ以外考えられなくなってしまった。接客担当の人には、「女性と2人で来店されると大体もっと婚約指輪らしい華やかなものをお選びになりますね」「あ〜、男性の方って結構細かいこだわりをお持ちの方が多いので、そういったタイプのものを選ばれる方は多いですね」「なかなか人とかぶらないとは思いますが、そうですね〜婚約指輪だけは王道のものをって女性の方は多いと思いますよ」などと、暗におれのセレクトを反対しているような感じだったけど、恋人の見た目のイメージや、普段使いもしてほしいという想いを話したことで最終的には「これしかないですね!」と納得してくれた。なぜこの人を納得させないといけないんだろうかと冷静になって思うが、丁寧に伝えることでダイヤ選びも至ったあともイメージの共有済みということで話が進めやすかったように思う。まあ、たしかにおれの判断で結構個性的なものを選んでしまっているので、そもそもがこれを喜んでくれるかはとても不安なのだけれど、大きくはずしてはいないと思う。そう思いたい。ブランドの売りはダイヤだったので、予め決めていたクォリティのものでお願いした。ダイヤ、めちゃくちゃに美しい。こんなに輝いている石を見たことがない。これが恋人の指にはまることを考えるとうっとりしてしまう。サイズはもうおおまかに作って直すしかないと諦めていたのであまり迷うことなくオーダー。刻印はどうするかと聞かれ、何割のお客さんが入れているのかと聞き返すと9割という返答だったため、そんなにかと驚愕した。別にあってもいいとは思うのだけれども、プロポーズの日も決まっていないし、付き合った記念日も少し考えたが婚約指輪にそれを入れる意味がよくわからないなとか、入れることでチープになってしまいそうだなとか、考えを巡り巡らせたすえにやめることにした。納品は9/26とのこと。プロポーズはそのあとか。特にその頃に記念日もないので、きっかけが難しい。理想は、夜が更けたどこかからの帰り道に、愛しているという情動に任せて自然な会話の流れから伝えることなのだけど。それだとあまり特別感はないな。本当に悩む。

とにかく今日は、思ってたよりかなり気に入った指輪を作れたので大満足で帰路へ。恋人へプレゼントやお土産を買った時は我慢できずにすぐ話してしまうたちだが、これだけは辛抱しなければなるまい。買ったという事実のみならず、この喜びをすぐに伝えられないのは辛い。普段どれほど恋人に感動の共有をしたがっているかが改めてよくわかる。

2020.8.23(日)

恋人が両親と食事に行ったため、1人で落ち着いて案を練る。インターネットの検索に頼ってみようとすると、陳腐なプランしかでてこない。さっき1人カラオケに行った時に最後に歌ったHomecomingsの『cakes』には思い出がありすぎて何かで使いたい。あとはカネコアヤノも2人とも好きだということと、歌詞の世界が理想とするこれからの暮らし像にハマりすぎているためピッタリなんだよな。カラオケで歌いながらプロポーズのためにカネコアヤノがおれに曲を書き下ろしてくれるという妄想をしました。

やっぱり思い出を盛り込みたいのだけれども、ここという場所がすぐに思い浮かばない。絞り出した中で少し良いかなと思ったのは、付き合い始めのGWに、夜遅くダウンを着込んで花見に行った公園。そこでプロポーズ後に、あの日と同じように自転車でやってきたおれの友人に2人の写真を撮ってもらう。悪くない。

8.24(月)

「プロポーズの案」をググったり考えたりするから陳腐な例しかでてこないのだ。もっと形に拘らずに多角的に考えねばならない。ということで感性を磨き、ヒントを得るべくインプットを積極的にすることにした。果たしてこれは近づいているのか遠ざかっているのか。今のところわかりません。

8.25(火)

公園でプロポーズするならそこへ行く口実が必要だ。紅葉なら昼間だしな〜などとと考えていたところ、お月見はどうだろうとひらめく。そとで月見団子食べようと誘うのも良いな。のってくれそうだし。今年の十五夜は10月2日(金)らしい。いずれにしても平日か。平日はちょっと微妙なので3日(土)にしようか迷う。いつにしても、その付近で食事したあとに公園に行くのが良いな。素敵な店でもいいけど、ここは何度か2人で行ったことあって気に入っているカジュアルなイタリアンの店がいいな。ほろ酔いで月を見に行くのもいいな。やっぱり満月案は良いな。いつかの満月の夜にふと思い出したりできそうで。

9.2(水)

朝恋人とシャワーを浴びながら、過去に元彼氏が婚約指輪のカタログみたいなものを持ってきたという話をされ、もう少し突っ込んで聞いてみたかったけど墓穴を掘りそうなのでなんとか避けた。注文したあとなのに、サイズとか好きなデザインが気になってしまう。もう1ヶ月後に迫っているけどあまり実感はない。

昼休みに友人にLINEをした。

おれ「10/3の夜あけておいて!頼みがある」

友人「夜?なんだなんだ」

  「プロポーズするの?」

       「踊ればいいのか?」

おれ「踊ってもいいよ」

友人「写真とればいいのか?」

という流れに。夜に頼みがあるから空けておいてしか言わなかったのに、プロポーズすることと写真をとってほしいことを見抜いた友人の勘の良さに驚く。とにかくすぐに話は伝わり、依頼が完了した。

9.3(木)

恋人と2泊の温泉旅行。途中気分が高揚して何度も結婚してほしいと言いそうになる。楽しい酒は危ない。あと一ヶ月待たなければいけない。

9.5(土)

温泉から帰ってきたその足で、恋人とおれの実家へ行った。両親が実家を出て、引越しをするため最後の帰省になった。そこに恋人も着いてくるかたち。短期間に二度の実家訪問なんてバチバチに結婚意識してしまってまずい。いや、まずくはないんだけど。

9.6(日)

一緒に夕食の支度をしていると、おれも会ったことがある恋人の親友が結婚するとの報告がきた。すごくおめでたいし嬉しいのだけど、少し変な空気になった気がするし、心なしか恋人が元気なくなったように見えた。勘違いであっても、待たせてしまっていることが申し訳ない。でも、一生に一度のことなので、もう少し待ってください。ごめん。あと一ヶ月を切っているのに、冬の始まりに春の訪れを待つくらい長く感じる。

なんて思っていたら眠りにつく前に案の定恋人から「○○たちはいつ?」と冗談風に聞かれた。「ご安心を」「coming soon」などと言って受け流す。

9.11(金)

来月結婚するという恋人の親友が遊びにきた。恋人がトイレに行った隙に「10/3プロポーズします!」と打ったiPhoneのメモ画面を見せつけた。驚いた様子で「絶対気付いてないと思います!」と言っていたので、ああ、きっとそういう気配がないみたいな話を最近していたんだろうなと察した。

9.20(日)

この2日間で恋人がものすごくポップに「じゃあ結婚しよう!」などと言ってきて、その対応に苦慮してしまう。うまい受け流し方がわからないうえにこちらの計画の都合だけでハッキリしたことが言えず申し訳ない。おれのエゴでしかないのである。あと約2週間が死ぬほど長く感じる。本当にごめんなさい。

そういえばこの前遊びに来た、恋人の親友のプロポーズはネックレスだったらしいと言う話を恋人から聞いた。その話をしている感じから、やっぱり指輪でしょという気持ちが読み取れたのでホッとした。早く指輪に会いたいです。

9.25(金)

プロポーズの言葉とか、ちゃんと決めたら絶対うまく言えなくなるポンコツなので、ふわっとしか考えていない。でも最後はシンプルに「結婚してください」とかかな。あと言いたいのは「一緒に幸せになろう」です。相手を幸せにしたいし、自分もなりたいので。

9.28(月)

指輪ができているはずなので、仕事終わりに受け取りに行く。別に間に合えば今週のいつでもいいのだけれど、実際に対面することで気持ちの高まりも違ってくる気がするので。帰り道、空を見ると円に近い月が浮かんでいた。満月まであと4日。あいにくプロポーズ予定日の天気予報は雨になっている。でもなんか晴れてくれる気がする。今日は家に帰ったら、当日に家でかける思い出の曲プレイリストを作ろう。

指輪を受け取りに行く途中で、同期と飲みに行く道中であろう恋人を発見して駆け寄って声をかけた。なぜ今おれがここにいるという、当然の疑問を持たれることを恐れる間もなく駆け寄っていった。おれは犬だ。話しかけてからなぜここにいるかという理由を「歩いて帰りたくて」というやや強引な理由にしようと決めた。プロポーズが終わったら謝ろう。

お店で受け取った指輪、ダイヤが煌めきちらしていてうっとりした。そしてよりプロポーズすること、結婚することの実感が湧いてきた。帰り道、ご機嫌で無印良品に寄ってキッチングッズや食器を眺める。その足取りは踊るように軽く、手は自分の左右の太ももをリズミカルに叩いていた。どこかで食事をして帰ろうと思ったが、指輪を受け取るとどうでも良くなったので地下鉄で帰宅。もう一度指輪を開けて眺め、それをクローゼットの奥へ隠した。

9.29(火)

バツイチ婚活中の女友達と、幸せ同棲中の男友達(ゲイ)と飲む。おれは順調かと聞かれ、週末にプロポーズするプランがあるが天気が心配だと話した。それなら前日の金曜にしてはどうかと言われ、写真を撮り行ってあげられると言ってくれた。ありがたい。土曜はやはり雨予報で、本当にそれを頼むかもしれないと言っておいた。

10.2(金)

本当の満月の日。月はあまり見えなかった。結局、恋人は残業せず、一緒に焼肉に行った。自分に甘く、決めている月の回数を破って外食してしまうようなところ、とても良い。帰り道は雨だった。今日にしなくて良かった。寝る前に、些細なことでおれがへそを曲げてしまった。前日だというのに。でもやっぱり寂しかったんだ。当初の予定どおり、プロポーズは明日実行することにして、写真撮影を頼んでいる友人がいるグループLINEで軽く打ち合わせ。頼まれた方も緊張している様子だった。明日が忘れられない日になりますように。

10.3(土)

計画当日。天気予報をみるとまさかの昼から晴れに変わっていた。なんとかなる気がすると根拠のない自信があったが、まさかここまでとは。

朝は冷凍していたコストコディナーロールを恋人が淹れてくれたコーヒーとともに食べた。NHKドキュメント72時間を観ながら食べた。この番組はコーヒーとの相性が良い。食べ終えたあと、いつものようにゴロゴロしてスマホゲームをする恋人。きっと今日結婚を申し込まれるとは思っていないだろうな。夕食に出かける前に、去年1日に2回もみたアラジンを2人で観た。愛がなんだと迷ったけど。

出かける前、恋人がいつもよりおめかしをしようとしてくれている。素晴らしいです。そして意外に緊張しているおれに少し驚く。

食事はここ最近の中で一番会話も弾み、自然にすごく楽しい。意識はしていなかったけど、なにかがそうさせたのかな。何気ない日常が特別で幸せと何度も言ってくれた。友人がLINEで、この場に立ち会えることが嬉しいと言ってくれている。これから店を出て、思い出の公園に月見をしに行く。月は見えるだろうか。見えても見えなくても、どちらでもいい。月見にもっていく飲み物を買いにスタバに入る。気分が高揚している。ああ、人生のピークだ。そしてそのピークはこれから更新され続ける。

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